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経済・経営に関する情報をご紹介するページです。

企業倫理について ~湖国に経営の原点を求めて~

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大阪から東へ。京都を越え琵琶湖が見え隠れしだすと、もうそこは近江の国。NHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』の舞台です。 江姫探訪は次回の楽しみとして、本日の目的地は滋賀県東近江市五個荘町。近江商人発祥地の一つ、『てんびんの里』です。近江商人は、伊勢商人、大阪商人とともに日本三大商人と言われてきました。江戸時代から昭和初期にかけて多くの近江商人が生まれ活躍しました…トヨタ、伊藤忠、丸紅、高島屋、大丸、西武グループ、日本生命、ワコール、ヤンマー、東レ、東洋紡、日清紡、西川産業など、名だたる企業が近江商人を起源としています。

586近江商人の特徴は、近江国に本拠地を置きながら、天秤棒を担いで日本全国を渡り歩いた広域行商。天秤と荷の重さは約10㎏。近江商人博物館でその重さを実際に体験しましたが、肩にズシリときます。雨の日も風の日も天秤一本でどんどん売り歩く、しかし、その商法は、お客様の利益を一番に優先し、薄利多売に徹したのものでした。

やがて、江戸日本橋、大阪船場、京都三条といった大商業地を含めた日本各地に出店を構えるようになります。そして、大阪で古着を集めて東北へ、その一方、東北の生糸等を京都や大阪の需要地へ送るという出店間での特産物の回送で成功していきます。山形の紅花、福島の漆器、名古屋の青貝塗など各地特産物を取り扱うだけでなく、関東では醸造業、北海道では漁業を手がけたり、海外にまで進出する者も出たそうです。

「他国へ行商するも総て我が事のみと思はず、其の国一切の人を大切にして私利を貪ること勿かれ、神仏のことは常に忘れざる様に致すべし」
                            (五個荘商人・中村治兵衛家・家訓より)

近江商人が日本全国の地域社会に根づき繁栄した要因はいくつかあるようですが、その中で一つの思想が興味を惹きました。それは『三方よし』という考え方です。『売り手によし』『買い手によし』、そして『世間によし』という近江商人に共通した理念。上記家訓は、その原典として紹介されていたものです。近江商人は、商売の当事者だけでなく、出先地域や社会全体への視点を持っていました。利益至上主義に陥ることを戒め、天下の需要と供給を調整する役割を誠実に果たす、そしてその社会貢献の恩恵として利益があるとしました。近年、ビジネス当事者のあるべき関係を示した米国流のWIN-WIN精神が日本のビジネス界を席巻していますが、何のことはない、我らが先人はさらに広い視野を持ち、そこに社会公共性という要素をプラスして実現してきたのでした。

思えば、原子力発電所の放射能問題、個人情報流出問題、生肉食中毒問題…と、私たちの生活に企業の社会的責任が今ほど切実に影響している時はないように思います。2006年の会社法施行とともに内部統制システムが導入され、コンプライアンス(法令順守)、CSR(企業の社会的責任)の概念が提唱されて久しいのですが、まだまだ机上の空論の域から脱し切れないようです。

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てんびんの里では、近江商人博物館と白壁舟板張りの土蔵が続く風情豊かな景観の中、いくつかの豪商の邸宅が見学できます。近江商人の子弟精神教育である鍋ぶた行商を描いたビデオ映画『てんびんの詩(うた)』も鑑賞することができ、物心両面のいろんな展示がなされています。また、当時としては世界最高水準の複式簿記や契約ホテル・チェーン店の考え方も考案していて、それらの資料も展示されていました。また、一旦商家を継ぎながらも作家の道を選んだ外村繁の生家も見学できました。梶井基次郎・井伏鱒二・太宰治らと交流しつつ、きっと人生・職業の葛藤に苛まれた彼の軌跡もまた興味深いに違いないでしょう。これらを深く紐解いていくとページは尽きませんので、このあたりで留め置くこととします。

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近江からは京・大阪へも江戸へも、延いては九州から東北、そして北陸道を通れば敦賀から北海道へと向かうことができます。東海道と中山道と北陸道が交わる地の利もあれば、湖上交通の利もあります。そんな交通の要衝として戦国時代から覇権争いが続いたため土地が荒廃しました。そして零細農業だけでは生活できずに貧窮に苦しみ抜いた現実がありました。そこから止むを得ず行商の道に出たようですが、近江商人は、その中においても生きることを真っ直ぐに見つめ、そして真理を見い出し、独自の職業観・職業倫理にまで昇華させたのでした。むしろ、政権も価値観も何もかも揺れ動く時代だったからこそ、確固不抜たるものを自身の心の中に構築する必要があったのかもしれません。 天秤一本、肩に食い込む重荷はもとより、どんな苦労も厭わずむしろ誰よりも率先し、不撓不屈・勤勉・倹約・正直・誠実を胸に、過ぎた我欲を一切排除し、589新しい土地に行こうともただ奉仕の精神第一を貫き、多くの人々に愛され信頼されていく…それが、商人として人間として、正しく生きることと結論付けたのでした。

近江商人の魂と精神力を育んだこの近江の地に立って初めて、企業倫理というものの一端に触れることができたように感じました。それは、豊かさと便利に慣れた者が軽々しく口にして論じるには、あまりに重くて深くて果てしなくて、ひたすら広がる田園風景や流れゆく雲を映している広大な琵琶湖や、そして、近江商人たちが天秤とともに歩んだ沢山の真摯な人生に、重なっているように思えてなりませんでした。

2011/05/30